貨車の絵 その11



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コキ100+コキ101形 コンテナ車

コキ100形+コキ101形 コンテナ車 初期塗装 公式側 電磁ブレーキ

コキ100系は、昭和62年(1987年)のJR貨物発足直後に、コキ10000系やコキ50000系の後継コンテナ車として誕生しました。

コキ100系は 新時代の標準車とすべく 従来車に比べ いろいろ改良されています。
まず最高速度は、電磁ブレーキ使用でコキ車24両1200t編成 最高速度110km/h、もしくはコキ車26両1300t編成 最高速度100km/hで、また電磁ブレーキを使わなくてもコキ車24両1200t編成 最高速度100km/hで走る能力があります。
この要求を満たすため、また、メンテナンスフリーを考慮して、ブレーキ装置は新設計のものとなりました。
次にコンテナの大形化や海上コンテナ積載を考慮し、荷重を増大(40.5t)。床面高さを従来より100mm低くして1000mmとしました。台車も新設計です。
また、コキ100系は 突放禁止車両となり、留置ブレーキが車体側面に付きました。

コキ100系で最初に新製されたのは 4両ユニットのコキ100・101形で、昭和63年(1988年)から66ユニットが量産されました。
ユニット車としたのは製造やメンテナンスのコストを抑えるためで、中間車のデッキを省略して車長を短くし、電磁弁は両端のコキ101形にのみ装備しています。
なお、電磁ブレーキのための電磁弁は、普通のブレーキ制御用の常用電磁弁と、非常ブレーキ用の非常電磁弁、ブレーキを緩めるユルメ電磁弁がありますが、電磁弁自体は同じもので 取り付ける所の配管によって役目を変えています。

絵は比較的初期の仕様で描きました。

コキ102+コキ103形 コンテナ車

コキ102+コキ103形 コンテナ車 公式側 電磁ブレーキ

コキ102+コキ103形 コンテナ車 増備車 公式側 電磁ブレーキ

コキ102・103形ユニット車は、コキ100・101形ユニット車に続けて増備された形式で、開発の主眼は さらなる製作コストダウンです。
具体的には 常用電磁弁をコキ100・101形では4両中2個装備していましたが、コキ102・103形では4両中1個装備としました。
公式側の 前から コキ103形奇数号車+コキ102形奇数号車+コキ102形偶数号車+コキ103形偶数号車で連結され、コキ102形奇数号車に電磁弁が集中配置されています。
平成元年(1989年)から115ユニットが製作されました。

絵の上段が当初量産のタイプで、90ユニット製作。
下段は平成2年度(1990年)に製作されたマイナーチェンジ版で、通称500番代です。25ユニット製作。
500番代は 中間車の車体長を両端車に合わせ、また中間部ジャンパー線はコネクター接続となっています。500番代とは言うものの それはコキ102形のみで、コキ103形の車号はこれまでの続番になっています。

中間車の車体を伸ばしたのは 大形コンテナの積載を考慮したためですが、従来の短い中間車でも31ftコンテナを2個積載できるので、一見 無意味な延長に感じます。あるいは変則的な全長のコンテナを積むための予約席なのでしょうか?
しかし ちょうど前年の平成元年(1989年)に登場した18D形コンテナから コンテナの全長を伸ばしたため、フォークリフト運転手から「コンテナの間隔が狭すぎて荷役しにくい。」と苦情が寄せられており、それも影響しているのかも知れません。

コキ104形 コンテナ車

コキ104形は コキ100系の単車として、平成元年(1989年)〜平成9年(1997年)までに 2908両が製作されました。

ユニット車は、東海道・山陽や東北・北陸の大幹線の拠点間を 固定編成で往復運用をするのには適していますが、運用の柔軟性には難があります。
また、4両のうち1両でも不具合があると 4両全部を止めなければなりません。その際 駅に4両も予備車が無くて、欠車状態で列車を走らせざるを得なくなる場合もあります。
デッキが両端車にしかないので、車両の向こう側に渡るのに 大きく遠回りしなければならないのも苦痛です。
そこで、コキ100形試作の段階で、単車版を作ることを考慮した標準化設計がなされていました。

コキ104形は 製作期間が長いので 量産途中で仕様変更が繰り返されています。大まかに分けると以下の3タイプで、

コキ104形 コンテナ車 初期車 初期塗装 公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 初期車 公式側 20ftコンテナ積

まず、上のが初期タイプ。外見はコキ101形に似ています。

コキ104形 コンテナ車 中期車 初期塗装 公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 公式側 空車Aコキ104形 コンテナ車 中期車 公式側 30ftコンテナ+22.5ftコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 公式側 20ft5t混載コキ104形 コンテナ車 中期車 非公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 非公式側 20ft5t混載 コキ104形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 公式側 5tコンテナ積 電磁ブレーキコキ104形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 電磁ブレーキ 非公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ

次が61号車以降の中期車で、コキ103形後期車と同じ外見。手ブレーキハンドルの位置が高くなりました。
当初はJR貨物の表記がされていましたが、途中でJRF表記となり、最近は社名ロゴを省略しています。

コキ104形 コンテナ車 後期車 公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 後期車 公式側 空車Bコキ104形 コンテナ車 後期車 非公式側 20ftホッパコンテナ積 コキ104形 コンテナ車 後期車 JRFマーク消去 電磁ブレーキ 非公式側 5tコンテナ積コキ104形 コンテナ車 後期車 JRFマーク消去 非公式側 空車A 電磁ブレーキ 編成端

そして1281号車以降の後期車では、車体台枠の構造を簡素化し、台車を改良しました。

コキ104形 コンテナ車 海上コンテナ対応車

コキ104形 コンテナ車 M仕様 公式側 20ft海上コンテナ積コキ104形 コンテナ車 M仕様 非公式側 40ft海上コンテナ積

コキ100系は、海上コンテナに対応可能として製作されましたが、実際の輸送は なかなか始まりませんでした。
それでも規制緩和や営業努力で、平成7年(1995年)から徐々に海上コンテナ輸送を開始しました。
当初の輸送は港から内陸までの輸送でしたが、現在は 主要幹線に広く普及しています。

コキ100〜105形で海上コンテナを輸送する場合、40ft海上コンテナや、20ft総重量20tの海上コンテナ2個積みの場合は 従来のJR20ft3個積み用のコンテナ用緊締装置の位置では車体強度が持たないため、適正位置に可搬式のコンテナ緊締装置を取り付けられるようにして対処していました。※コキ104形1281号車以降は対応不可。
しかし、海コンの輸送が増えるに従って 可搬式緊締装置をいちいち着脱するのは面倒なので、コキ106形式量産までのツナギとして、コキ104形中期車改造の海上コンテナ積載専用車を用意しました。
これは、従来の仮設位置に転向式のツイストロック緊締装置を常設したもので、車体側面に識別のためマリ〜ンの頭文字のMを大書しています。
通称Mコキは、横浜本牧〜宇都宮貨物ターミナルや、神戸港〜福岡貨物ターミナル等で運用されました。
なお、同じ20ft海上コンテナでも 常に20tあるわけではなく、Mコキ積みの海上コンテナでも軽荷の場合は せっかくの増設緊締装置を使いません。

コキ104形 コンテナ車 中期車 元M仕様 公式側 20ftコンテナ積コキ104形 コンテナ車 中期車 元M仕様 公式側 空車A

Mコキは、平成8年(1996年)から改造されましたが、コキ106形式が必要数増備されると、一般車に復元されました。
よく見ると、転向式ツイストロック緊締装置の名残があります。

コキ105形 コンテナ車

コキ105形 コンテナ車 公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ

コキ105形は、4両ユニットと単車の製作コスト削減 対 運用効率の折中案として2両ユニットとしたもので、平成2年度(1990年)から40ユニットが製作されました。
外見はコキ103形後期車に似ています。奇数号車にのみ電磁弁を装備しました。

結果的には どうにも中途半端な存在になってしまい、少数の製作に留まりました。少数派なので さらに運用しにくくなりました。
現在は 変動の少ない専用列車に集中使用されています。

コキ72形 コンテナ車

コキ72形 コンテナ車 公式側 ISO20ftタンクコンテナ積

コキ72形は大型化してきた各種海上コンテナを輸送するために平成9年(1997年)に1両試作された低床コンテナ車です。
当時は新たな収入源として海上コンテナ輸送が注目されたところで、コキ104形の海上コンテナ対応車も生まれたのですが、ちょうどそのころ40ft海上コンテナに高さ9ft6inの背高コンテナが普及し始めたところでした。
また、トラックでISO規格の重量級コンテナの輸送ができるように道路交通法の改正が迫っておりました。

となると、いよいよ低床コンテナ車の需要が現実味を帯び、また20ftコンテナ×2の荷重48tを運べるコンテナ車を開発することにしました。
とはいうものの、現実的には従来タイプのコキ100系で海上コンテナ対応の汎用車のコキ106形が同時進行の開発で優先され、こちらは試作車です。

コキ72形に求められた性能は、ISO規格海上コンテナフル積載(40ftコンテナで総重量30.48t×1個、もしくは総重量24tの20ftコンテナ×2個)可能で、高さ9ft6inの背高コンテナも運べて、最高速度110km/hです。
というわけで、これまで開発してきた低床貨車(コキ70形、クサ1000形(下述参照)、コキ71形(下述参照))の経験を生かして、コキ72形は手堅くまとめられました。
それまでの低床貨車と違うコキ72形ならではの特徴としては、2軸ボギー車で大荷重なために極力車長を短くして自重を軽くしています。
また、車長が短いと車体が固くなって脱線しやすくなるので、側フレーム式をやめて中央梁式にしました。
床面高さは、大型トラックのピギーバックを考慮したコキ70形の709mm、特殊コンテナを載せるコキ71形の700mmと違って、クンロクの海上コンテナが載せられれば良いので740mmとやや余裕のある設計です。
台車はコキ70形のFT11→クサ1000形のFT12→コキ71形のFT12Aと進化してきた中で発展形同系の空気バネ台車FT15を使用しており、車輪径610mm(使用限度570mm)で、車輪を直に締め付けるタイプのディスクブレーキを採用しています。

コキ72形は各種試験に臨み、さすがにJR化後4例目の低床貨車だけあって、コスト以外はまずまずの成績だったようです。
しかし、肝心の海上コンテナの鉄道輸送の需要が全然育っておらず、コキ72形は時期尚早でした。
がんばって車体を軽量化したのに、製作半年後には12ftコンテナ用緊締装置を増設して、汎用車の道を模索したりしましたが、量産は叶いませんでした。

コキ106形 コンテナ車

コキ106形は、本格的に海上コンテナに対応した汎用コンテナ車として、平成9年(1997年)から1162両が製作されました。 コキ104形の後継車です。
従来の100系に比べ 荷重を0.2t増の40.7tとして 20ft総重量20.32tのISO規格海上コンテナ2個積に対応し、また積載位置をJR20ftコンテナと同一にしました。
また、40ftコンテナ用緊締装置を装備したり、従来積載不可だった総重量24tのISOコンテナを1個載せられるようにしました。
そのため、車体強度を上げたのが特徴です。台車は従来のFT1系からFT2形に変わりました。
またツイスト式緊締装置も、イギリスからもたらされた軽量なタイプを採用しました。

コキ106形 コンテナ車 初期車 公式側 初期塗装 5tコンテナ積コキ106形 コンテナ車 初期車 公式側 初期塗装 20ft海上コンテナ積

コキ106形 コンテナ車 初期車 公式側 30ftLNGタンクコンテナ積コキ106形 コンテナ車 初期車 非公式側 40ft海上コンテナ積 コキ106形 コンテナ車 初期車 JRFマーク消去 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 初期車 JRFマーク消去 非公式側 20ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 初期車 JRFマーク消去 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ

コキ106形も製作期間が長いので、いろいろ仕様変更があります。大まかに分けると、
まずは 上に描いた感じで、当初はコンテナブルー塗装でしたが、途中から海上コンテナ対応の識別として 灰色に変更されました。他形式と同じく、平成29年(2017年)からJRFマークは順次消去されています。

コキ106形 コンテナ車 中期車 公式側 空車Aコキ106形 コンテナ車 中期車 公式側 20ftコンテナ積 コキ106形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 非公式側 40ftリーファー海上コンテナ+電源コンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 非公式側 20ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ106形 コンテナ車 中期車 JRFマーク消去 非公式側 5tコンテナ積 電磁ブレーキ 編成端

555号車からは手ブレーキ不緩解事故(手ブレーキを緩め忘れたまま車両を走らせちゃう事故)防止のため、遠くからでも手ブレーキの使用状況が分かるように 手ブレーキ緊解表示板が車体側面に装備されました。
この板は手ブレーキ装置とリンクで繋がっていて、手ブレーキを巻くと板が側面に張り出すようになっています。

コキ106形 コンテナ車 後期車 公式側 5tコンテナ積コキ106形 コンテナ車 後期車 公式側 ISOタンクコンテナ積コキ106形 コンテナ車 後期車 非公式側 空車Bコキ106形 コンテナ車 後期車 非公式側 空車A

713号車からは荷重を検知する装置を変えました。配管が増えています。
その他、コキ106形の後期車になるにつれ ゴテゴテと色々な装備が追加されていますが、効果より欠点が目に付くため、検修の現場には まったく歓迎されていません。

100系の連結パターン

コキ106形 連結パターン

ここで、コキ100系の連結パターンを コキ106の絵を利用して掲載します。
電磁ブレーキ使用列車では、自動ブレーキホースの他に 元空気ダメホースとジャンパー線を接続しています。
上から自動ブレーキホースのみ。
奥側 元空気ダメホースとジャンパー線連結。
手前側 元空気ダメホースとジャンパー線連結です。以下、車両の向きを変えて同じ。
以前は東海道・山陽筋でしか使われなかった電磁ブレーキですが、最近は保安度向上のため95km/h列車でも電磁ブレーキ使用が拡大されています。

コキ200形 コンテナ車

コキ200形 コンテナ車 公式側 ISO20ftタンクコンテナ積コキ200形 コンテナ車 公式側 ISO20ftタンクコンテナ積コキ200形 コンテナ車 非公式側 ISO20ftタンクコンテナ積

コキ200形は、老朽化した私有貨車をコンテナ化する事を主目的に、平成12年(2000年)に開発されました。
荷重48t、最高速度110km/h、全長15mで、長さ20ft 総重量24tの海上コンテナを2個積載できます。154両製作。

私有貨車と言えば化成品タンク車ですが、種類が多いうえ 老朽化しても所有者はなかなか廃車にしてくれず、JRとしては保守上のネックとなっていました。
私有貨車の寿命は だいたい経年30年が目安ですが、それを超えると車両自体の腐食劣化の他に、部品の整備も困難となります。
また、最高速度も75km/hで、各駅に専用線が分散している状況では輸送上も問題で、入換作業も煩雑で経費ばかり掛かります。

化成品タンク車のタンク(積荷によってそれぞれ特殊な構造)部分をコンテナ化して、足廻りを標準化したコンテナ車と分離できれば、古い規格の部品を多数揃えておく必要が無くなり、車両メンテナンスが楽になり、経費削減できます。
また、各企業の専用線を廃止し、コンテナターミナルからのトラック輸送に切り替えれば、とても輸送効率が改善します。

海上コンテナに関しては 平成10年(1998年)に道路交通法が改正されて、ISO規格コンテナフル積載(20ftコンテナで総重量24t、40ftコンテナで総重量30.48t)のトラック輸送が可能となり、次第にそれを運べるトラックも整備されてきていました。

海上コンテナ化は、荷主にとっても専用線を廃止できたり、駅での積み替えや そこからの輸送用の専用タンクローリーを省略したり、とメリットが大きいです。
化成品タンク車を置き換えた荷主は コキ200形にコンテナを積載したまま専用線での車上荷役により対処していますが、荷主にしてみれば、いざ鉄道輸送がダメになってもトラックで運べるので、物流の戦術が増えて好都合です。
コンテナは規格化されているので、輸送するトラック業者を 自社の都合の良いように選べます。
私有貨車だと、例えば足廻りに不具合があると その貨車は修繕の間 輸送に使えませんし、車両の定期検査も加味して かなり余分に予備車を 自社の予算で用意しておかなければならないのです。
JR側としては、先に書いたコスト削減の他にも、“大型海上コンテナを運べる”というセールスポイントを得て、新たな顧客獲得に成功しています。

さらに、化成品のコンテナ化の利点としては、無駄な途中積み替えが発生しない事により異物混入が減るので、製品品質が向上します(※これが普通の有蓋コンテナだと、逆に荷役回数が増えて、荷痛みとかで品質低下の原因にもなりうるのですが・・・。)。
コンテナ化のデメリットとしては、コンテナの不具合をJRが見逃す恐れがあるという事ですが、これは駅での積付検査体制をしっかりする事が重要です。

コキ200形の1号車は、私有貨車版のコキ2000形2両と共に製作されました。この3両が コキ200系の試作車です。
コキ2000形は、私有タンク車を直に私有コンテナ車で置き換える事を考えて形式を分けたのですが、これは計画中止となり、所有者は鹿島臨海鉄道となりました(だから実際には私有貨車では無くて社車です。)。
その後、JR所有としてコキ200形(2号車〜)が量産されました。

コキ200形は20ftのコンテナを2個(48t)、もしくは20〜40ftコンテナを1個(30.48t)積めます。
コンテナの高さは8ft6inまでで、9ft6inの背高コンテナは想定していませんが、主要顧客のISO20ft海上コンテナは高さ8ft6inが主流なので問題ありません。
JR5tコンテナは積めず、海上コンテナ輸送に特化した設計となっています。
そもそも 荷重48tは2軸ボギー車のギリギリの設計で そのため全長を短くして車体を軽くしているのですが、5tコンテナ用の緊締装置を取り付けると自重が増えて軸重オーバーになってしまいます。

JRで実際に運んでいる海上コンテナは、海を渡ってはるばる来た国際物流のケースと、工場間の国内物流にISO規格コンテナを利用したものがあります。
現在は 主に国際物流をコキ106形等の汎用コンテナ車が、海コンの国内物流をコキ200形が担っているようですね。
コキ200形は私有貨車の置き換えなので、汎用コンテナ車とは別運用が組まれ、一定地域の特定列車に専属運用されています。

そんなコキ200形ですが、平成22年(2010年)、平成23年(2011年)と 立て続けに脱線事故を起こしてしまいました。
そこで よく調べると、ある条件で脱線する可能性がある事が分かり、対策として台車のバネを非線形特性バネに替える事で解決しました。
これは 車体が短かくて強度が高いコキ200形特有の問題です。
その影響で、床面高さが1020mmと 車高が20mm高くなりましたが、運用上問題ないようです。
ただし、コキ200-1号車とコキ2000形の3両は車体形状が違うので それをすぐに適用できず、無改造のままです。
なお、これ以前からコキ2000形の方は輸送需要の関係か 検査切れのまま放置されています。

コキ110形 コンテナ車

コキ110形 コンテナ車 公式側 24Aコンテナ積コキ110形 コンテナ車 非公式側 空車A

JRの5tコンテナは、日本の商習慣に合わせて一番使い勝手の良い 長さ12ftクラスとなっており、ISO規格海上コンテナの10ftコンテナよりも大きいです。
しかし 一部顧客からは 「もうちょっと大きく、でも20ftもいらない。」というわがままな声も寄せられました。
また、JR5tコンテナはコンテナの固定方法が特殊であり、貨車にもトラックにもそれ用の緊締装置が必要です。
そこで、荷重8tの15ftコンテナを今後の汎用コンテナに加えるべく 24A形コンテナ10個と共に 15ftコンテナ対応のコキ110形が作られました。

コキ110形は、構造的にはコキ106形に15ftコンテナ用ツイスト緊締装置を増設したもので、コキ106量産真っ最中の平成13年(2001年)に5両が誕生しました。
わざわざ新形式を起こしたのは 増備を考慮したためですが、とりあえず試作車です。運用試験が順調にいけば、既存のコキ106形式の改造も検討されていました。

結局、15ftコンテナは本格採用にならず、 24A形コンテナが全廃された現在は“趣味的に”1ヶ所に集められて コキ106形式と共通で運用されています。

コキ107形 コンテナ車

コキ107形 コンテナ車 前期車 公式側 5tコンテナ積コキ107形 コンテナ車 前期車 非公式側 空車Bコキ107形 コンテナ車 前期車 非公式側 31ftコンテナ積

コキ107形 コンテナ車 後期車 公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ コキ107形 コンテナ車 後期車 公式側 JRFマーク無し 空車C 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 JRFマーク無し 後期車 公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 公式側 5tコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 公式側 5tコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 公式側 JRFマーク無し 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ 編成端コキ107形 コンテナ車 後期車 公式側 JRFマーク無し 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 公式側 40ftリーファコンテナ積み 電磁ブレーキ 編成端コキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 公式側 40ftコンテナ積 電磁ブレーキ コキ107形 コンテナ車 後期車 非公式側 空車A コキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 非公式側 5tコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキコキ107形 コンテナ車 後期車 JRFマーク無し 非公式側 31ftコンテナ積 電磁ブレーキ

コキ107形は、コキ106形の後継汎用コンテナ車として平成18年(2006年)から量産されています。
コキ106形との変更点は、コキ106形では車体が固過ぎたので ちょっとやわらかくしています。
また、コキ200形で採用したユニットブレーキを装備したFT3系の台車を履いています。
コキ200形装備のものに比べて台車側枠の形状を変えてブレーキ装置を点検しやすくしました。
留置ブレーキもコキ200形に習って デッキに手ブレーキを装備しました。手ブレーキは立って操作する方が 断然効きが良いです。
コキ107形式の初期車は手ブレーキハンドルが大きかったのですが、荷役の際にコンテナをぶつける事が多かったため、途中から小形のハンドルに改められています。

ちなみに、貨車には昔から 検査表記や車号標記の近く、あるいは個々の部品に謎のマーク(□とか○とか○に横線とか・・・。)がペイントされる事がありますが、これらは一時的なものなので、私の絵では いちいち再現していません。
これら標記の意味は、何らかの都合で ある範囲の車を全数調査する際に 調査完了を示す目印か、何らかの都合で ある範囲の車の部品交換や修繕をする事になり、その対策が済んだ車の目印です。
その他の意味を持つものもありますが、用が済めば紛らわしいので、次回の検査の際に塗りつぶされます。

コキ107形 コンテナ車 フラット防止装置(ABS)搭載車

コキ107形 コンテナ車 前期車 フラット防止装置搭載車 公式側 空車Aコキ107形 コンテナ車 前期車 フラット防止装置搭載車 非公式側 空車A

フラットとは、急ブレーキをかけた際に車輪の回転が過剰なブレーキ力によってロックしてしまい、タイヤの表面がレール上を滑って平らに削れてしまう事を言います。
正式には踏面擦傷(とうめんさっしょう)と言いますが、これを起こすと走行中に“ダン・ダン・ダン・・・”と うるさいですし、何よりその振動は 荷物や軌道に悪影響を及ぼしますし、最悪 脱線の危険があります。

フラットを起こさないようにするためには、マイルドな運転操作も基本ですが、車両側でも 初めからその使用目的に見合った最適なブレーキ性能に設計されています。
しかし完璧とはいかず、気象等条件が悪い所で高速から急ブレーキを掛けたりすると、車両の癖によってはフラットが起きてしまいます。
特に最近は ATS-Pという保安装置が導入されて、これが制限速度を超えると貨物列車の場合は非常ブレーキが掛るようになっているのですが、問題は 機関車が空転した時に その空転を速度超過と誤検知して、要も無いのに非常ブレーキが掛って 編成1本フラットを起こしてしまう事例も起きてきました。目も当てられません。

フラットをそのまま放置するのは よろしく無いので、フラットを起こした貨車は運用から外して、車輪旋盤でタイヤを綺麗にします。
となると、余分な修繕費が掛りますし、予備車も確保しなければならず、車両を編成から抜いたり差したりもしなくちゃですし、もう大変な負担になります。
予備車がなければ、欠車で列車を走らせる事になり、大きな減収になります。

そこで 「ブレーキをロックさせなければいい。」ということで、滑走再粘着制御装置、すなわち自動車で言うところのABS(アンチロックブレーキシステム)を貨車にも導入する事が考えられました。
滑走再粘着制御装置自体は 電車とかでも導入されていますが、貨車は走行中に人の監視が及びませんし、電源も ありませんので工夫が必要です。
貨車ではコキ70形やコキ106形で試験が行われてきました。

コキ107形は、最初からフラット防止装置の搭載を考慮して製作されました。
具体的な装置は、各車軸の片側軸端に速度検知器を装備し、その他1軸の軸端に車軸発電機を付けて走行中に発電。演算装置を起動します。
各 速度センサーの回転速度差を演算装置が検知すると、そのロックしている車軸のある台車のブレーキ力を緩めるために、滑走防止弁からブレーキシリンダ圧力を一時的に抜きます。
滑走が おさまれば、再度ブレーキを掛けます。 という仕組みです。

コキ106形の試験の際は 新幹線共用区間でのブレーキ動作を確実にして制動距離の短縮も狙ったものでしたが、コキ107形のものは そこまでの確実性は要求されず、コキ106形の装置で搭載されていた蓄電池は省略して、システムを簡素化しました。
タイヤフラットの防止を最優先として装置を簡素化しているため、ABS装置を利かせると気持ち 制動距離が延びるそうです。
なお、仮にフラット防止装置が故障しても、従来の非装備車の性能は確保されているので、問題はありません。

コキ107形では151号車と152号車に装置が搭載されて、試験が行われました。
外観は、軸端に5つ装備された円筒状の出っ張りと、線路脇の雑草が絡まりそうな配置のケーブルが特徴です。

コキ107形のフラット防止装置は技術的には問題無く、量産設計も済んでいるのですが、現在は新製コキ車の頭数をそろえるのが優先されているためか、今のところABS取付準備工事のみで製作されています。
その後、車両状態監視装置というものとABS装置を搭載した834号車と835号車が製作されました。
2017年現在では4両揃って ABS装置の長期実運用試験をしています。

コキ73形 コンテナ車

コキ73形 コンテナ車 公式側  40ftコンテナ積コキ73形 コンテナ車 非公式側  40ftコンテナ積 電磁ブレーキ

平成末期。いよいよ海上コンテナの本格的鉄道輸送の環境が整ってきたため、JR貨物は背高海上コンテナを輸送する低床コンテナ車を製作して試してみることにしました。
低床コンテナ貨車としてはほぼ完成したコキ72形があったのですが、試作から19年も経っており さすがに設計が古く、コキ72形をベースに改良し、さらにABS装置を追加したものをコキ73形として再設計しました。

で、とりあえず4両ほど製作して、平成28年(2016年)にデビューするつもりが、叶いませんでした。
まあ、そこは固く考えずに柔軟な発想ですぐに新台車の設計に取り掛かり、平成31年(2019年)から慎重に走行試験をしつつ計4両が順次、実運用に組み込まれてゆきました。
ただ、まだまだお試し運用であり、製作・維持コストの面から量産の予定は立っていないようです。

コキ73形のスペックは、ベースのコキ72形のものを引き継ぎ、荷重48t、最高速度110km/hです。
しかし、亜幹線にも入線できるように荷重30.5tも設定されています。これはISO規格20ft海上コンテナの総重量24t2個積はできませんが、ISO規格40ft海上コンテナの総重量30.48tはどこへでも運べることを意味しています。

本格導入されたABS装置は、小径車輪を使う低床貨車にはぜひとも欲しいものです。
というのも、通常車輪直径860mm(円周約2700mm)が標準なところ、低床貨車は直径610mm(円周約1915mm)としており、標準車輪が1回転するところ小径車輪は約1.4倍の負担がタイヤ踏面に掛かるため、滑走などもっての外だからです。
ちなみに、小径車輪というと回転数の増加から軸受の発熱を懸念する向きもありますが、コキ71形の運用経験で問題は解消しており、コキ73形は48t積ということでコキ200形と同じ軸受を使用しています。

ところで、コキ73形はコキ72形をそのまま近代化したようなものですが、荷重48tはオーバースペックに思えてなりません。
コキ72、73形の荷重48tは,、ISO規格20ft海上コンテナの2個積みを想定したものなのですが、20ft海上コンテナには基本的に低床貨車は必要ないのです。
詳しく説明すると、20ft海上コンテナは一般的に重量勝ちの貨物に使われます、総重量の範囲内でできるだけ荷重を確保するために、コンテナ自重を減らしてやる必要があるので、無駄に容積を増やさないで高さは8ft6inに抑えられます。
最近はタンクコンテナの化成品輸送も廃止されたりしてコキ200形に余裕がある状況ですし、単発の輸送ならコキ106、107形で賄えそうです。
対してISO規格40ft海上コンテナは、嵩高(容積勝ち)貨物を積むために、自重は増えても できるだけ箱を大きくしており、9ft6inの背高コンテナが標準です。
この最大総重量は30.48tですが、実のところ、40ftのサイズが必要で且つ 30t越えの貨物なんてそうそう無いのが本当のところです。
海上コンテナ用貨車は40ftコンテナ用として割り切り、荷重30.5tとすれば、そんなに軽量化を頑張らなくても設計の自由度が増すはずです。

そもそも、レール面上床面高さ740mmも、9ft6in(クンロク)のコンテナを積んでどこでも走れる事を目指したスペックですが、東北本線系統では床面高さ1000mmのコキ100系でクンロクのコンテナが運べているのです。
何もそんなに頑張って低い床を求めなくても、コキ100系より100mmとか200mmとか、ちょっと床が低い程度でクンロクのコンテナが運べる線区は意外と沢山あるのではないでしょうか?
だとすれば、そんなに無理しなくてもコストのかからない車両設計が可能になると思うのですが・・・。

クム80000形 4tピギーバック用車運車

クム80000形 4tピギーバック用車運車 登場時 公式側クム80000形 4tピギーバック用車運車 非公式側クム80000形 4tピギーバック用車運車 空車 公式側クム80000形 4tピギーバック用車運車 空車 公式側+ローディングランプ

戦後。国鉄では貨物輸送の近代化のため、トラックを貨車へそのまま載せて輸送するピギーバック輸送というのが研究されだしました。
トラックが自走で貨車に乗ってくれれば 積み替えの必要もなく、縦ホームを用意するだけで 高価な荷役機械も必要ありません。
誰でも考え付くこの方法は、積載限界が大きい北米で始まりました。
時を経ずして欧米では 積載効率をさらに高めたコンテナ輸送方式(ボキシーバック方式輸送)が盛んになり、国鉄でもコンテナ方式とピギーバック方式を並行して研究を始め、まずは 昭和34年(1959年)に5tコンテナ方式が実用化されました。

大型フォークリフトやクレーンを必要とするコンテナ方式は順調に発展しましたが、ピギーバック方式は 日本の在来線では積載限界が小さく、貨車の床面を下げる工夫が必要で、開発は難航しました。
この問題は欧州でもおんなじで、小径車輪の特殊台車を装備した低床貨車を開発したり、台車は従来のものを使用して床面を一部落とし込むカンガルー方式を開発したりしてました。
国鉄ではそれら知見を取り入れ、ず〜〜〜っと研究していました。・・・結局、実用化ができないまま 国鉄は解体されてしまいました。

国鉄民営化の動きが盛んになった頃。世間はバブル景気真っただ中でした。
物流業界の人材の確保が大変になり、人件費も高騰したため、企業としてはコストダウンを迫られました。
そこで、ある通運会社は、4tトラックで地域集荷した荷物を、そのまま4tトラックで拠点間移動させて地域配達する方式を考えました。

一般的に小口荷物は 小回りの利く中小型トラックで地域集荷し、中継基地で大型トラックに積み替えて拠点間移動し、着地の中継基地で再度 中小型トラックに積み替えて地域配達する方式です。
拠点間移動を大型トラックでするのは、ドライバーや車の台数を節約するのに効果的ですが、ここを地域集配用トラックごと鉄道輸送できれば 基地中継の手間と時間がカットできます。また、荷室を開けないので荷痛みのリスクも減らせます。

この提案に国鉄は飛びつきました。
国鉄末期。日本の鉄道貨物はボロボロになっており、車扱輸送よりは遥かに近代的なピギーバック輸送は大変魅力的で、コンテナ輸送と並んで新生JRの貨物輸送の花形となると考えられました。
国鉄で従来研究されていたピギーバック方式は、10t以上の大型トラックを運ぶ事を目標としており、低床貨車の開発にひたすら難儀していたのですが、4tトラックを運ぶ程度なら 簡単に実用化できます。
昭和61年(1986年)の運行開始までには 参加する通運会社も増えました。国鉄数十年来のピギーバック輸送の夢が叶うのです。

クム80000形は、4tピギーバック輸送用車運車として昭和61年(1986年)〜平成3年(1991年)に79両が製作されました。
4tトラックを2台積載し、荷重は16tで、足廻りはク5000形車運車の廃車発生品を生かしつつ コキ50000形250000代と同じ1200t95km/h列車や1000t100km/h列車に必要な走行性能を持たせました。
なお、私有貨車として作られ、コンテナの積載は考慮されていません。また、トラックは専用の4tトラックをメーカーと協議して規格化しました。
車両間の渡り板は東海道筋では倒したまま、上越筋では立てて走っていたようです。

クム1000形/クム1001形 4tピギーバック用車運車

クム1001形 非公式側_クム1000形 公式側+クム1000形 非公式側_クム1001形 公式側 4tピギーバック用車運車クム1000形500番代 4tピギーバック用車運車 前期車 公式側クム1000形500番代 4tピギーバック用車運車 後期車 非公式側クム1000形500番代 4tピギーバック用車運車 後期車 空車 公式側クム1000形500番代 4tピギーバック用車運車 前期車 空車 非公式側

クム1000系4tピギーバック用車運車は、クム80000形の増備形式として製作されました。
コキ100系と同等の1300t100km/h列車や1000t110km/h列車に対応する走行性能を有しており、荷重は同じながら トラックの手歯止位置を揃えるために 若干全長が伸びました。
クム1000形+クム1001形の2両ユニット車と 単車のクム1000形500番代があり、ユニット車は平成元・2年(1989・1990年)に37組74両、500番代は平成2年(1990年)〜平成4年(1992年)に54両が製作されました。
なお、クム1000形500番代の手すりは前後位とも白塗装されていますが、国鉄時代の常識では本来ならこの表示は手ブレーキのある側を示すものなので、後位側のもののみ白ペイントされるべきでした。


国鉄最末期。4tピギーバック列車は華々しくデビューを飾り、新生JRの元、バブル景気に押されて瞬く間に路線を拡大しました。
しかし、バブルが崩壊すると平成11年(1999年)頃に あっけなく終焉を迎えてしまいました。

日本でピギーバック輸送が開始されたのは、国鉄〜JRの新たな「輸送需要の開拓」精神によるものが大きかったです。
民営化直後のJRは、とにかく体力を付けるために 関連事業も含め いろんな事に 手当たり次第に、本当にありとあらゆる事に挑戦していました。
しかし、昨日まで国営企業だった国鉄には民間企業のノウハウが無かったため、失敗した事業も多く、この4tピギーバックもそれにあたります。

たしかに4tピギーバック輸送は新規需要を開拓し、専用列車を増発するまでに成長しました。
しかし顧客の希望ばかりを受け入れて、JR側の利益を真剣に考える余裕がありませんでした。
当時は、まだ運賃を自由に設定する事もままなりませんでした。
バブルが弾けてJR側がそれに対処しようとした時、あっさりと顧客は離れていきました。

4tピギーバック輸送には、以下の問題がありました。

まず、ピギーバック輸送は コンテナ輸送を“退化”させたものと捉える事ができます。
これはコンテナ輸送の発展経緯を見れば明らかで、トラックから無駄な運転台やシャーシやタイヤを省いたのがコンテナです。
同じ20m級貨車で見た場合、5tコンテナなら5個積めるのに、4tピギーバックの場合は4tトラック2台だけで、どう考えても非効率です。
このため通運会社は荷重+トラック自重+αの割高な運賃を払わされましたが、実際は特別運賃をもってしても JRとしてはコンテナ5個の方が儲かるのでした。
新規需要を開拓したので 4tピギーでも儲けは出るのですが、最初の提案の時、国鉄はコンテナをおススメすれば もっと儲けられました。国鉄・JR内部では 最初から4tピギーバックには反対意見もあったと聞きます。

次は運用上の問題ですが、ピギーバック輸送は荷役が簡単という割には、駅に着いたら わざわざ編成をバラして、専用の頭端式ホームに押し込まなければなりません。
また、どんなに急いでいても、手作業でトラックの固縛を解除して、1台づつ順番に降ろしていかなけらばならず、その間トラックドライバーは待ちぼうけです。
専用の器材を用意して、無駄なものを運ばなければならず、荷役に手間が掛るという 原始的な輸送方式と言えます。

時間に正確と うたっている割には列車は頻繁に遅延し、やっと駅に着いても荷役に時間がかかるピギーバック輸送。
貨車に積んでしまったら最後、コンテナのように途中駅で降ろすという芸当もできません。
しまいには通運会社の絶大な反感を買ってしまい、鉄道貨物輸送の宣伝になるはずが 逆にJRの企業イメージを大きく損なったのです。

ピギーバック輸送は、ヨーロッパでは環境対策もあって国の全面的なバックアップでうまい事いってるのですが、それは大型トラックの輸送です。
輸送距離の長い北米は 元より効率的です。

日本のピギーバックは、地域集配車をそのまま運ぶため、中継所での荷役が不要な利点がありましたが、逆に言えば「荷を選ぶ」特殊なケースでしか効果がありませんでした。
4tピギーバック車の集荷方法は、遠方の荷受人から順に集荷して奥から荷物を積み、着地では決められた順番で荷を降ろさなばならず、近距離に集荷(配達)先が固まっているのが理想で、しかも安定して荷がある必要があったのです。
結局は帰り荷が“空”の事が多かったのですが、これの輸送枠をJRは年間契約で買わせていたのです。
荷があろうが無かろうが列車は自由席ではなく、事前に指定席(輸送枠)を買わされているので、無駄な経費が掛かりました。
メリットがあるうちは良かったのですが、当然の事ながら、利点がなくなれば 顧客は あっさり方針転換します。

これを、コンテナと同じように、当日に誰もが好きな時に載せられればまだ良かったのですが・・・。
4tピギーバック用トラックが専用設計の特殊車であったのも問題でした。

クム80000形、クム1000系。いずれも運用終了後、何かしらの使い道を模索・・・青函トンネルピギーでも当てにしていたのでしょうか? 解体されずに ずいぶん長いこと駅の片隅で留置されていました。
せめてコンテナ緊締装置でもついていれば、私有コンテナ車として使えたかもしれません。
ちょっと不憫な気もしますが、貨車としては10年働けば成功例であり、車扱輸送を近代化した功績は大きいと言えるでしょう。

クサ1000形 4tスーパーピギーバック用車運車

クサ1000形 4tスーパーピギーバック用車運車

クサ1000形は、「20m級貨車に4tトラック2台では“儲からない”ので、4tトラックを3台載せられるようにしよう。」という考えのもとに、私有貨車名義で平成5年(1993年)に2両1ユニットが製作されました(トラック3台も同時製作)。
バブルが弾けて数年経ち、輸送量が減少しだしたピギーバック輸送の復権の願いを込め、スーパーピギーバックを名乗ります。

まず、20m級貨車にトラックを3台積むために、4tトラックをギュッと押しつぶしたような特殊なトラックを用意します。
従来タイプの4tピギー車は汎用車両をベースとしていましたが、この車はほぼ新規開発です。
かなり特殊な車輛ですので 少々お高くなっていますが、通運会社持ちなので鉄道会社側は損しません。
このトラックは貨物積載限界ギリギリの大きさで、運転台の上まで荷物が積めるので、重心も少々お高くなっています。
特殊な荷台形状なので、荷物をスピーディに積み込むのは 熟練者の腕の見せ所です。

貨車の方も、背の高いトラックを乗せられるように 小径車輪の特別なものを開発しました。車輛設計者の腕の見せ所です。
従来の貨車とは仕様がだいぶ違うので、新規開発品が多く単価も跳ね上がり、検修の現場も大変そうですが、上からの指示なので仕方ありません。
ところで、4tトラックにこだわらないで、大型トラック積載用とする考えはJRは忘れていたのでしょうか?

車輛完成後は走行試験が行われましたが、技術開発と平行しての走行試験なので、途中に色々改修されています。
絵は比較的初期の姿です。

スーパーピギーバックが試験走行しているころには、顧客は背中を見せていたのでした。
また、仮にクサ1000形を無理に実用化したとしても、同様の台車を採用したコキ71形が不調に終わった事を考えると、トラブル続出だったと思われます。
私有貨車であり 低床貨車の試作車としての価値もなかったのか、結局、クサ1000形はJRに車籍編入する機会さえ与えられませんでした。

コキ71形 カーラックシステム用 コンテナ車

盛んだったク5000形による新製自動車の輸送は、国鉄末期に壊滅。JR化後にいったん復活しますが 平成8年(1996年)に輸送終了しています。
逃げた客は なかなか戻ってこず、今さら専用貨物列車を走らせるほどの輸送量もなく、JRや自動車会社としてはコンテナ化して少量でも運ぼうと研究しました。
その結果、カーパックとか自動車輸送用の各種専用コンテナが生まれたのですが、これらは基本的に帰り荷が空なので 勿体ないという事で、平成6年(1994年)にカーラックシステムが開発されました。

カーラックシステムとは30ftコンテナに往路は自動車4〜5台(コキ2両ユニットで16〜20台。)、復路は12ftコンテナ2個(コキ2両ユニットで8個。)を積めるようにして 往復輸送で積載効率を高めようというコンセプトで、コキ71形低床コンテナ車、汚損防止用のカーラック覆、UM20A形30000番代カーラックコンテナ、カーラックコンテナ輸送用トレーラーで構成されています。

カーラックコンテナは全長30ftで、4.8m級乗用車4台積のタイプと、4.2m級乗用車5台(4.7m級乗用車なら4台。)積のタイプの2種類が用意されました。両者はコンテナの番代を分けずに適宜増備されています。富士重工製。

UM20A形30000番代 30フィート カーラックコンテナ 二次形 4.2m級自動車5台積 道路モードUM20A形30000番代 30フィート カーラックコンテナ 二次形 4.2m級自動車5台積 鉄道モード

絵に描いたのは4.2m級乗用車5台積みのタイプで、自動車の荷役方法は自走式(RORO式)。
自動車を積み込む手順は、上・中段を下げておき、上段分を向かい合わせに積んだら上段を上昇、バックで下段奥に1台入れて、中段に4台目を入れて中段を上昇、最後に下段手前に5台目を積み込み、上段をギリギリまで下げるという流れです。これら動作の動力源はトレーラーから供給される油圧です。
先に書いたように4.7m級乗用車なら4台積めますが、その他 自動車の形状に合わせて様々な積載パターンが可能です。
このコンテナは強度の都合で床が分厚い事もあり、トレーラーで道路輸送する際は 道路法の全高3.8m以内に収めるため、また鉄道輸送時は全長を30ftに抑えるため、道路モードと鉄道モードで床が変形します。

UM20A形30000番代 30フィート カーラックコンテナ 二次形 12ftコンテナ積

床を畳むとJR12ftコンテナが2台載ります。
カーラックコンテナの荷役にはトップリフタは使えないのですが、カーラックコンテナの自重は4tで 12ftコンテナの総重量は6.8tなので 計17.6tとなります。
駅にいる20ftコンテナ用の15tフォークリフトでは力不足なので、12ftコンテナの荷役では先にカーラックコンテナをコキ71形に積んでからの作業となります。

カーラックシステム用トレーラー 4.2m級自動車5台積

カーラックコンテナ輸送用トレーラーは、通常の30ftコンテナ輸送用のトレーラーの後部に 折り畳みスロープを付けた専用車で、これも富士重工製(トラクターは日野とか。)。システムの油圧動力源でもあります。

コキ71形 コンテナ車 偶数号車非公式側 奇数号車公式側

コキ71形低床コンテナ車は、低床試作車のコキ70形をベースに、クサ1000形で開発した技術を盛り込んだ、カーラックコンテナ専用車です。
川崎重工製で、量産叶わなかったクサ1000形用の部品も転用して 試作車と合わせて8両4ユニットが製作されました。
何でここで低床貨車かと言えば、コンテナの長さを30ftに収めるため自動車の積載高さが高くなり、且つ 汚損防止のためのカーラック覆まで装備しなければならなかったからです。
低床貨車の技術的には完成していて、先例に倣って2両ユニットで中間の連結器は 低い位置の固定連結器を使用。台車はクサ1000形の物と同系のボルスタレス空気バネ小径車輪台車(車輪径610〜570mm)で、ディスクブレーキを装備しています。
最高速度は電磁ブレーキ使用で110km/hです。

コキ71形 コンテナ車 奇数号車非公式側 偶数号車公式側 荷役中

カーラック覆(ラックカバー)は実は貨車の一部ではなく、コキ71形の付属品という扱いで、富士重工製。
貨車本体ではないので整備時に外せますが、コキ車の車号が書かれているので、組み合わせはいつも同じです。
アルミ製で貨車に固定されるのは妻壁と柱のみです。側面の扉は上方折りたたみ式で、且つ、コンテナの荷役のためにカバー全体が全高5550mmまで上昇します。
ラックカバーが大きく持ち上がった姿は、ちょっと風が吹けば倒れるんじゃないかと心配になる、すごく不安定な姿をしています。
コンテナの緊締は両側でしなければならないため、コンテナホームの反対側の扉も若干開けます。
これの動力源も油圧で、トレーラーもしくは 駅に新規配備した可搬式油圧ユニットから供給されます。

ここでちょっと、カーラックコンテナの貨車への積み込み手順を 列挙してみましょう。4.8m級乗用車4台積の例で、4.2m級乗用車5台積の場合は内容が若干異なります。
1.駐車ブレーキによりトレーラーを留置する。
2.トレーラーとカーラックを油圧ホースで連結する。
3.カーラックの上段床を上昇させる。
4.上段床を鉄道モードにする。
5.下段床を鉄道モードにする。
6.上段床をロックピンの位置まで下げる。
7.上下段の床をロックする。
8.トレーラーとカーラックの油圧ホースを取り外す。
9.トレーラーのツイストロックを解除し、ラックを分離可能とする。
10.トレーラーと貨車を油圧ホースで連結する。
11.カバーのロック装置(コキ1両当たり ぐるっと1周12ヶ所。)を解除する。
12.荷役側の側下部カバーを上方に折り曲げる。
13.荷役側の側上部カバーを上方に全開放する。
14.荷役と反対側のカバーを、ラックが固定できる程度に開放する。
15.屋根カバーを最上位まで上昇させる。
16.トレーラーのリアゲートを水平付近まで開く。
17.トレーラーと貨車の油圧ホースを解放する。
18.フォークリフトでカーラックを持ち上げる。
19.トレーラーの駐車ブレーキを解除し、トレーラーを小移動させる。
20.カーラックを貨車に積載し、固定する。
21.トレーラーと貨車を油圧ホースで連結する。
22.屋根カバーを下降させる。
23.荷役と反対側のカバーを閉じる。
24.荷役側の側上部カバーを閉じる。
25.荷役側の側下部カバーを閉じる。
26.貨車とカバーをロックする。
27.トレーラーのリアゲートを閉じて、固定する。
28.トレーラーと貨車の油圧ホースを取り外し、格納する。

以上、油圧ホースを繋げたり外したり、トレーラーの運転席に座ったり下りたり、計28工程で貨車にカーラックコンテナが1台載りました。コキ71形1ユニットでは これを4回繰り返します。
とまあ、こんな作業を 普通の駅社員がやってられないので、JR貨物はカーラックコンテナ輸送・取扱い専門の子会社を設立しました。

コキ71形 コンテナ車 奇数号車非公式側 偶数号車公式側 汚損

コキ71形は、今のところ唯一 実運用された小径車輪貨車で、平成7年(1995年)春から名古屋貨物ターミナル〜新潟、次いで名古屋貨物ターミナル〜米子で運転されました。
実際運用してみると、日本海ルートは塩害線区で しかもコキ71形は、機関車次位に組成される事が多かったため、見事に茶色くウェザリングされ、ラックカバーの効果をいかんなく発揮しました。
絵では ごく薄化粧の姿で描きましたが、実際はもっと まっちゃっ茶で、ヒンジ等の可動部の油染みも強かったです。

平成8年(1996年)には さっそく車軸折損で脱線事故を起こしましたが、小径車輪という事情はあるものの 輪軸組立時の配慮不足という原因が解明されて、対策が取られました。

その後は末永く活躍・・・とはいかず、まあ、貨車は10年運用されれば成功例と言えるのですが、製造数わずか8両で終わり、結局はハードもソフトもシステムが複雑に過ぎて維持ができなくなり、平成19年(2007年)には運用休止となって、そのまま復活する事はありませんでした。
ラックカバーやコンテナを作った富士重工は、平成14年度(2002年度)に鉄道事業から撤退しているので、その影響もあるかもしれません。

今思えば 自動車輸送のコンテナ化にこだわり過ぎていたきらいがあり、コンテナの厚み分、低床貨車を使わなければならないという沼に嵌まりました。
「往復輸送」と「汚損防止」だけが目的なら、単純にコキ104形をベースに 折りたたみ高さがコキ50000形式並みの昇降式走行路を設置して、自動車はRORO荷役、汚損防止にはヨーロッパ式の横引き幌を付けた“クコキ”でも開発したほうが コストが掛からなくて普及したと思います。
しかしそれは後知恵というもので、当時は低床貨車の実用化が必要だったのです。それが歴史というものです。


貨車の絵 その1は こちら  貨車の絵 その2は こちら  貨車の絵 その3は こちら  貨車の絵 その4は こちら  貨車の絵 その5は こちら  貨車の絵 その6は こちら  貨車の絵 その7は こちら  貨車の絵 その8は こちら  貨車の絵 その9は こちら  貨車の絵 その10は こちら  貨車の絵 その12は こちら  貨車の絵 その13は こちら  貨車の絵 その14は こちら  貨車の絵 その15は こちら  貨車の絵 その16は こちら  積荷の絵その1は こちら  積荷の絵その2は こちら  蒸気機関車の絵は こちら  ディーゼル機関車の絵は こちら  電気機関車の絵は こちら  小形鉄道車両の絵 その1は こちら  小形鉄道車両の絵 その2は こちら

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